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なんでもよくない

ビルの地下にあるタイ料理屋
昼食を食べていたとき、
50過ぎくらいのおじさんが入ってきて、
しょうが焼きとかある?」って訊いていた。

僕が「あるわけねーだろ」と
心の中でつぶやいていると、
店員が同じビルの2階にある
ハンバーグやステーキのチェーン店なら
あると思いますと言っていた。

どうやらこのおじさんは、
同じビルの別の階にある
ハンバーグ屋と間違えてタイ料理屋へ
来てしまったようだ。

自分が店を間違えたことがわかって
出て行くのかと思ったそのとき、
そのおじさんは、
ラーメンとかある?」と訊いていた。

僕は心の中で、
「あるにはあるけど、多分あなたが考えてる
ラーメンとは違うやつだよ、ここのは」
「スープはトムヤム味とかナンプラー味とかだし、
コリアンダーの葉っぱとかのってるし、
砂糖かけて食べたりするんだよ、ここのラーメン」
と呟いていた。

でも店員は、
「あー、ラーメンだったらあります!
ちょっと味が…ですけど、
うちはタイ料理屋ですからタイの…」
と引きとめるか、帰らせたいのか
よく分からない感じに答えていた。

すると、おじさん
「あー、なんでもいいや
じゃーそのラーメン頂戴!」
と、すぐオーダー。

僕はそこで会計を済ませて店を出てきたので
実際にそこのタイ風ラーメンを食べたおじさんが
どうしたかは分からずじまいだ。

もし僕がこのおじさんみたいに間違えたら
絶対店を出て2階のハンバーグ屋に
行きなおしただろう。
「昼ごはんは、しょうが焼き!」って気分のときに
急に全然考えてなかったタイ料理を
食べる気持ちになれるとは思えない。
外食するときは、僕はいつもそれなりの
意思と覚悟をもって臨んでいるつもりなのだ。
食意地が張ってるだけかもしれないけど。

それに
なんでもいいや!」って
食べ物屋では絶対言わないほうがいい言葉だ。

まともな店なら、料理人のプライドを傷つけるし
いい加減な店なら、どんなものを食べさせられるか
分かったもんじゃなくなるからだ。

自分の家じゃないんだから
「なんでもいいや」は油断しすぎだ。

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